ノーティラスエステート
冷たい風の中、厚手のコートで目指したのは南半球ニュージーランド。二年前の二月でした。
約13時間のフライトも私には苦になりません。なぜなら、機内でサーブされるワインの種類はとても豊富で、どれも素晴らしく美味しいのです。期待は高まる一方でした。
ニュージーランド北島のネイピア空港に降りると、そこは夏の終わり。適度な湿度、適度な温度、絶好の天気が私達を迎えてくれました。南北両島の3箇所を巡る旅。今回ご紹介するノーティラスエステートは二番目の訪問地マールボロにあります。ネイピアから国内線プロペラ機に揺られてさらに南へ向かいます。
私がサミュゼに入ったばかりの頃、お酒にはとても弱くて、赤ワインやスパークリングワインは苦手だったのです。唯一、美味しいと感じたのはサラサラとした白ワイン。
出勤の初日『今日はこれを覚えてね』と、お店で出して貰ったのがニュージーランドマールボロ産ソーヴィニョンブラン……私が美味しいと感じられる白のワインでした。
香りを味わい口に含むと、豊かな果実味が広がってキュッと酸味が舌をつつきます。鼻腔を抜ける緑の香りが衝撃的だった事を憶えています。これまでに味わったワインとは比べ物にならないと感じたのです。
私がワインを愛するきっかけになったニュージーランドのワイン。今でもそう思える程に、素晴らしい出会いでした。
ニュージーランドワインの約75%はこのマールボロで造られており、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・グリなども生産されていますが、中でもソーヴィニョンブランは今や世界中で知られています。
この品質を生み出すのはぶどうと気候風土の相性。リッチモンドマウンテンが北部からの熱気を遮り、南から吹く「ローイング・フォーティ」というこの地独特の風や、南極から細く注がれる寒気を山肌が受け止めてぶどうの為の環境を創ります。さらに太平洋へと続く大きな川が流れており河口から石や砂を運ぶのですが、この運ばれた地質がソーヴィニョンブランとの相性がとてもよいのです。
今回訪れたノーティラスエステートはそのマールボロの地に六つの畑を持つワイナリー。ノーティラスとはラテン語で「オウムガイ」の意味があり、バランスを重んじるモチーフだそうです。ワイナリーの入口で、オウムガイを模した彫刻が私達を出迎えてくれました。
家族経営の小さなワイナリー。当時は、まだ日本に輸入されておらず、テイスティングルームで口に含む度「こんなに美味しいのに、日本にないなんて!」と口々にコメントしたものです。そのワインが待望の日本上陸。嬉しくてすぐに入荷しました。
ギュッとした果実味、レモンやライムの酸味、新緑の香り、さらに太平洋を思わせるミネラル感。あぁ、マールボロのソーヴィニョンブランは私の原点だなとあらためて感じた瞬間でした。
記:藤原留衣